『特定生産緑地』の税金についても解説

生産緑地の指定から30年が経過する『2022年問題』がようやく過ぎ去り、特定生産緑地の指定を受けられた方、そうでない方がいらっしゃると思います。
特定生産緑地を受けていない方については、固定資産税が突然上がりビックリされていらっしゃる方も多いのではないでしょうか?
また、特定生産緑地の指定を受けた方も、これから税金がどうなるか分からない方もいらっしゃるかと思います。

「2022年問題とは何だったか?」については、別の記事でご紹介しているのですが、今回は特定生産緑地を所有、相続するうえで固定資産税や都市計画税、相続税が幾らくらいになるのか、納税猶予を受けることのメリット、デメリットを解説!
ややこしい生産緑地の問題について、出来る限りわかり易く解説いたしますので、最後までお読みいただけましたら幸いです。

著者情報

『特定生産緑地』評価と納税猶予with image|URUHOME

株式会社ドリームプランニング 代表取締役 高橋 樹人

法政大学工学部建築学科卒、中堅不動産仲介業者を経て、株式会社ドリームプランニングに入社。底地、再建築不可、市街化調整区域内の土地など、特殊な土地の売買を多く手掛ける。2020年8月より代表取締役に就任

1.(特定)生産緑地にかかる相続税、固定資産税はどのくらいなの?

1-1.特定生産緑地の相続のための評価

 特定生産緑地の相続評価の価額=(その土地が生産緑地ではない事として評価した価額-造成費用※1)×(1-減価割合※2)

生産緑地の相続税上の評価額は以上の計算式ですが、もっと簡単に言うと、「造成費用も考慮して、市街化区域の宅地とした場合の価格から一定の割合を控除したもの」が評価になります。

工事費用(単位)東京・神奈川・千葉・山梨埼玉・茨城・群馬・栃木・長野・新潟愛知・静岡・岐阜・三重大阪・京都・兵庫・奈良・滋賀・和歌山
整地費(/㎡)700円700円700円700円
伐採伐根費(/㎡)1000円1000円1000円1000円
地盤改良費(/㎡)1800円1800円1800円1800円
土盛費(/㎥)6900円7100円7000円6600円
土止費(/㎡)70300円69700円71500円67600円
※1 造成費用 財産評価基準書より―市街地農地等の評価に係る宅地造成費(令和2年)

例えば1億1000万円の評価の土地で造成費1000万円、買取の申し出を出来るまで2年の場合、(1億1000万円-1000万円)の10%引きの9000万円が相続税上の土地の評価となります。

ここで『買取の申し出が出来る時期とはいつか?』ですが、買取の申し出が出来るのは【生産緑地に指定されてから30年経過するか、農業従事者が亡くなるか、農業が出来ないような障害を持つことになる】時ですので、「2023年現在、買取の申し出が出来る生産緑地の場合」⇒控除割合5%という事になります。

ちなみに、課税時期は相続の場合も被相続人が死亡した日、贈与の場合は取得した日になります。被相続人が相続した生産緑地の主たる従事者の場合においても、「買取りの申出をすることができる生産緑地」になるため、控除は5%になります。

課税時期から買取りの申出をすることができることとなる日までの期間割合
5年以下のもの10%
5年を超え10年以下のもの15%
10年を超え15年以下のもの20%
15年を超え20年以下のもの25%
20年を超え25年以下のもの
30%
25年を超え30年以下のもの
35%
買取りの申出が行われていた生産緑地又は買取りの申出をすることができる生産緑地5%
※2減価割合 国税庁 生産緑地の評価より

1-2.特定生産緑地にかかる固定資産税

「特定生産緑地」は、生産緑地に指定後30年経過し、10年おきに延長できる制度です。

町田市HPより
特定生産緑地の選択する場合・しない場合の流れ(町田市HPより)

固定資産税において農地は一般農地、市街化区域農地に区分され、特定生産緑地においては一般農地と同じ、農地課税(三大都市圏特定市の非特定生産緑地の場合は、宅地並み課税)となります。

種別評価課税課税について
一般農地農地評価農地課税評価額×1.4%
一般市町村生産緑地以外宅地並み評価農地に準じた課税評価額×1/3×1.4%
特定生産緑地農地評価農地課税評価額×1.4%
非特定生産緑地宅地並み評価宅地並み課税評価額×1/3×1.4%
三大都市圏生産緑地以外宅地並み評価宅地並み課税評価額×1/3×1.4%

一般農地・生産緑地地区内農地の税額は次にご説明する本則税額、調整税額のいずれか少ない額になります。これは1年間での売買事例のみを評価額のもとにした場合、事例とする不動産が何かの理由で値上がりをした場合に、急激に固定資産税があがってしまうようなことを避けるために少ないほうになっているのです。

  • A(本則税額⇒評価される年度の原則の税率の事)評価額×税率
  • B(調整税額⇒急激な値上がりが無いように前年度の課税も考慮して調整された税率の事):前年度の課税標準額×負担調整率×税率

負担調整率とは下記表の負担水準(前年度の課税標準/本年の課税標準)の区分に応じた調整率言います。

負担水準の区分負担調整率
0.9以上のもの1.025
0.8以上0.9未満のもの1.05
0.7以上0.8未満のもの1.075
0.7未満のもの1.1

例えば今年売買価格が200円の/㎡、前年100円/㎡の土地が10000㎡あったとすると

A:本則税額:

200円×10000㎡=2,000,000円×0.55(限界収益修正率)×1.4%=15400円

※限界収益修正率=農地の売買は実際に得られる収益よりも高い金額を見込んで売買されることが多いので、一律で評価の55%を課税標準額としております。

B:調整税額:

100円×10000㎡=1,000,000円×0.55=550,000円(前年の課税標準)

負担水準=550,000(前年の課税標準)/1,100,000(本年の課税標準)=0.5

負担調整率=1.1

550,000円×1.1×1.4%=8470円

A.Bの課税額を比較するとBのほうが安いため、固定資産税は8470円になります。

1-3.特定市街地農地の場合と生産緑地と固定資産税の違い

これが三大都市圏特定にある『特定市街地農地』となった場合は宅地並みの課税がされるため、固定資産税額が全く変わってきます。

例えば本年度の売買価格100,000円/㎡×10,000㎡として、宅地造成費が5000万円とした場合、本則税額のみで計算すると

評価額は100,000円/㎡×10,000㎡-5,000,0000円=950,000,000円
課税標準額=950,000,000円×1/3=316,666,666円
課税額=316,666,666円×1.4%=4,433,444円

つまり生産緑地でなくなった場合、50倍もの固定資産税がかかることになってしまいます。

そこで、特定生産緑地に指定されなかった生産緑地の取扱いとして、固定資産税等の激変緩和措置があります。
この措置を利用すると、課税標準額に初年度:0.2、2年目:0.4、3年目:0.6、4年目:0.8の軽減率を乗じる措置が適用されます。

2.特定生産緑地の相続税納税猶予

2-1.生産緑地の相続税納税猶予とメリット

生産緑地の相続税は、買取の申し出が出来る日まで(≒生産緑地としての残存期間)が短いものほど控除割合は低くなることは説明いたしました。

しかし、生産緑地の相続税は負担が大きく農業が続けられないという事態が起きてしまいます。そのような事が起きないように相続税の納税猶予制度が出来ました。

これにより、相続により農地等(農地、採草放牧地)を取得し、引き続き農業を続ける場合、本来の相続税額の大部分の納税が猶予してもらう事が出来ます(相続人が亡くなった時に免除となります)

農業を続けたい方が相続税の納税猶予を受けることにより宅地並みの相続税を猶予でき、営農を続けている限り、納税を猶予できるというのは大きなメリットです。

2-2.納税猶予のデメリット

生産緑地の相続税納税猶予を受けられることはありがたいことですが、次のような場合、猶予されていた相続税の全部または一部と利子税を納税しなければならないため、注意が必要です。

  • 農業をやめたとき
  • 農地を売却する、転用する、耕作の放棄があった場合

また、平成30年9月1日以前に相続をしていれば三大都市圏の特定市以外は20年農業を続ければ納税が免除されておりました。

しかし、平成30年9月1日以降に相続をする(した)方は一生農業を続けなければ、相続税に加えて利子税も納税しなければならない可能性があるので、農業を続けていく覚悟のある方でないと納税猶予はあまりお勧めはできません。

2-3.生産緑地の納税猶予を受けるための相続人と被相続人の要件

被相続人には「亡くなる日まで農業を営んでいた」「農地を生前一括贈与し、納期限の延長特例の適用を受けていた」「障害や疾病などで農業ができなくなり、生産緑地に賃借権を設定して貸付け、税務署長に届出していた場合」「亡くなる日まで都市農地の賃借の円滑化に関する法律の規定による特定貸付けなどを行っていた」といった要件があります。

また、相続人は「相続税の申告期限までに農業経営を開始し、農業経営をおこなうと認められる」「農地等の生前一括贈与の特例を受け、障害や疾病などで農業をできなくなったために、賃借権を設定して貸付け、税務署長に届け出た」「相続税の申告期限までに特定貸付けなどを行った」などがあります。

つまり、「被相続人がずっと農業を営んできて、相続人もこれからも農業を営むと認められる」か「病気などで誰かに貸し付けて税務署に届け出をしていた」場合などは相続税の納税猶予が認められる傾向にあるようです。

2-4.納税猶予の対象となる生産緑地

納税猶予の適用対象とされるのは平成30年の法改正によって以下の生産緑地になりました。

  • 生産緑地の内、特定生産緑地の指定を受けたもの(生産緑地の内、都市環境の形成を図る上で有効であると認められ、市町村長が指定したもの。生産緑地の期限が到来してから10年延長出来る)
  • 田園住居地域(新しくできた用途地域で、農地や農業関連施設などと調和した低層住宅の良好な住環境を守るための地域、建築や農地転用が制限されます)

2-5.納税猶予の期限と免除事由の変更について

相続税の納税猶予要件は、平成30年の改正で、営農の要件が次のように変わりました。営農継続要件が終身となる事もあり、納税猶予のハードルが上がったと言えます。

三大都市圏・特定市※1三大都市圏・特定市以外地方圏
生産緑地地区終身終身※2終身※2
田園住居地区終身20年20年
上記以外の市街化区域20年20年
市街化区域外終身終身終身

※1-三大都市圏・特定市=首都圏、中京圏、近畿圏の政令指定都市や近郊の市など。計213市区

※2-三大都市圏特定市以外で平成30年9月1日以降に相続または遺贈により取得した場合は20年営農をすれば納税が免除されます。

3.特定生産緑地で困ったら?

生産緑地の固定資産税、相続税は計算が少し変わっている為、ご不明点があれば専門家もご紹介いたします。また、納税猶予をすべきかどうかお悩みのことがございましたら、こちらからお気軽にご相談くださいませ。

また特定生産緑地の指定を行っていない方、特定生産緑地の指定を行ったけど、もう営農をしない方など、生産緑地の売買に詳しい当サイトを運営するURUHOMEまでお気軽にご相談くださいませ。

私達が皆さまのお悩みを解決いたします。